遺産分割の対象にならない「当然分割」ってなんなの!?
遺産分割とは、亡くなられた方の財産(正の財産だけでなく、負の財産を含めます。)を相続人で分けることを言い、どう分けるかを話し合うことを遺産分割協議と言います。亡くなられた方の財産すべてが遺産分割の対象になると思っている方がほとんどだと思いますが、実はそうではありません。今回はそのあたりをお話したいと思います。
「当然分割」ってなんなの?
冒頭でお話しましたが、亡くなられた方の財産すべてが遺産分割の対象になるわけではありません。遺産分割協議を経なくても、当然に法定相続分に従って共同相続人間で分割承継することと法律で定められている財産があるのです。根拠判例は下記。
「債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである」(最高裁昭和34年6月19日判決)
このように「当然に法定相続分に従って共同相続人間で分割承継する」ことを「当然分割」といい、当然分割の効果は、相続開始の時点で自動的に発生します。
遺言書や遺産分割協議でも「当然分割」は覆せない
当然分割の話をしますと、「遺言書や遺産分割協議で、その負担割合を変更することは出来ないの?」と聞かれることがありますが、原則は出来ません。何故なら、第三者である債権者にとってみれば、遺言書や遺産分割協議の内容は被相続人側の身内の話であって、それに振り回される必要がないからです。
ですので、債権者は法定相続分に従って、承継者に請求すればいいのです。(相続人側でなく、債権者の立場で物事を考えれば当然こうなります)
遺言書や遺産分割協議の内容は内々では通じる
では、遺言書や遺産分割協議で当然分割される財産についての内容を決めることが出来ないのかといいますと、それもそうではありません。あくまでも、第三者である債権者に対して当然分割の内容を覆せないだけであって、身内である内々では内容を変更できるのです。
(具体例)〇 被相続人名義の借金 1,000万円 相続人は妻と子供2人の計3人だったとします。
・この場合、第三者である債権者は法定相続分に従って、妻に500万円、子供に250万円
づつ、それぞれに請求できるのです。(この内容は覆せません)
● しかし、遺産分割協議によって子供に迷惑かけないように妻が全額負担することを決めた
とします。
・この場合、第三者である債権者には子供も250万円づつ支払い、そしてその後、遺産
分割協議による求償権をもって母にその250万円を請求すればいいのです。
第三者である債権者に対しても内容を変更する方法はないのか?
そんな面倒なことは嫌なので、第三者である債権者に対しても有効な方法はないのでしょうか。
方法は下記2つが考えられますが、それぞれ懸念事項があります。
① 免責的債務引受
「免責的債務引受」とは、旧債務者・新債務者・債権者の3者間で締結される、旧債務者の債務を
新債務者が引き継ぐ内容の契約です。
相続人のうち1人を新債務者、残りの相続人を旧債務者として、債権者との間で免責的債務
引受契約を締結すれば、債務を1人の相続人に集中させることができるのです。
ただし、懸念事項としては、免責的債務引受には、あくまでも債権者の同意が必要というこ
とです。
債権者にとっても、新債務者となる相続人の資力が十分で、別々に取り立てる手間が省ける
メリットがあれば、免責的債務引受に応じる可能性は十分あるでしょうが、不安要素が増すよ
うなら難しいでしょう。
② 相続放棄
「相続放棄」とは、被相続人の資産・債務を一切承継しない旨の意思表示です。
相続放棄をした者は、当初から相続人にはならなかったものとみなされるため、債務の当然分割
の効果も遡って消滅します。これを利用して、1人を除いた共同相続人が相続放棄を行って、相続人
1人に債務を集中させることができるのです。
相続放棄をするには、原則として相続の開始を知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に申述書等
を提出することが必要です。(相続分の放棄とお間違えのないように)
懸念事項としましては、相続放棄をすれば債務は無くなりますが、併せて債権も放棄することに
なります。
最後になりますが、当然分割財産には、金銭債務、その他の可分債務のほか生命保険金も該当します
が、生命保険金の場合は相続分ではなく、保険金受取人固有の財産として、原則指定された受取人が
受け取ります。