奨学金の返済で過払い金が発生!?どういうこと???

 少し前の話題になりますが、奨学金(日本学生支援機構)の返済において過払い金が発生し、その是非を巡って係争中だった裁判が終結して結果、返還請求が認められました。一見しますと、何故奨学金の返済利率程度で過払い金が発生するのか不思議だと思われるでしょう。今回はそのお話をしたいと思います。

 

過払い金は保証人にだけ発生する可能性がある

 通常、主債務者が奨学金返済をしている分には、過払い金が発生することはありません。それはもちろん、上限金利3%程度の借金で起こる訳がないからです。

 奨学金の人的保証に関しましては、連帯保証人一人、保証人一人の計2名が必要になりますが、その保証人が返済した場合にこの過払い金が発生する可能性があるというのです。ですので、主債務者と連帯保証人が返済不能になったケースのお話ということです。

 これまでずっと盲点であり、返済請求する日本学生支援機構側も認識が無かった事案のようです。

 

どういう理屈なのでしょうか?

 今回の事案は、次のような理屈での事案です。

 通常、保証人には連帯保証人にはない3つの権利があります。「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」です。今回争点になったのは、最後の「分別の利益」についてです。

 分別の利益とは、保証人が複数いる場合に、それぞれの保証人が借金全額の支払い義務を負うのではなく、保証人の人数で按分した金額だけを負担すればいいというものです。

 例えば、300万円の借金に対して保証人(連帯保証人も含む)が2人いたら、1人の保証人は150万円を支払えばよく、残りの150万円について責任を負う必要はありません。

 今回の事案は、これまで日本学生支援機構側は保証人側からこの「分別の利益」について主張してきた者にだけその対応をとってきただけで、主張しなかった者に対しては全額の返済を求めており、日本学生支援機構側はこの「分別の利益」についてアナウンスする必要はないものと認識していたとのことで、この「分別の利益」についての解釈が争われたわけです。

 

札幌高裁の判決の結果は。

 すでに日本学生支援機構は上告を断念し、札幌高裁の判決が確定しておりますが、その内容は次のようになります。

 実質的に日本学生支援機構側の全面敗訴

 札幌高裁は、保証人の可分債務は当該保証人からの特段の権利主張を要することなく当然に分割債務になるとし、通常の保証人が、自らの負担額を超えて奨学金債務を返済したことが「非債弁済※」に当たると判示して、日本学生支援機構に対して、不当利得に基づき超過額を返還するよう命じました。

 さらに、札幌高裁は、日本学生支援機構を「悪意の受益者※」であるとも認定しました。

 ※ 非債弁済とは、債務者でない者が錯誤によって債務を弁済することを意味する。
 ※ 悪意の受益者とは、法律上の原因がないことを知りながら給付(債務の返済など)を受けた者を
   意味する。
   悪意の受益者に該当する者は、給付の利益が現存するか否かにかかわらず、その全額に利息を
   付して返還しなければなりません(民法704条)。

 

今後の保証人への対応については?

 日本学生支援機構側は、札幌高等裁判所判決を踏まえた今後の保証人への対応について次のようにHPに掲載しております。

 去る5月19日の札幌高等裁判所判決を踏まえて対応を検討した結果、今回の判決は、保証人の可分債務は当該保証人からの特段の権利主張を要することなく当然に分割債務になるとするなど、これまでの本機構の考え方とは異なるものでしたが、今般の高裁における判断を真摯に受け止め、上告を行わないこととしました。
 今後、請求が認められた原告の方に対して所要の支払手続を進めるとともに、本機構に記録が存在する過去5年以内の返還完了事案を含め、保証人の方から自己の負担部分を超える弁済を受けた返還金についても、個々の保証人にご連絡した上で速やかに超過額の返金手続を進めてまいります。対象となる方々には、今月中旬から7月上旬頃にかけて、順次ご連絡を差し上げる予定です。
 なお、これまで保証人の方への請求に当たっては返還未済額の全額を請求してきたところですが、今後は判決内容に照らし、返還未済額の2分の1の額を請求させていただくこととします。
本機構としては、今回の判決を踏まえて一層適切な対応に努めてまいります。

(独立行政法人 日本学生支援機構HPより)下記参照
 https://www.jasso.go.jp/news/1201755_1579.html

 返還完了から5年以上経過された方に対しても適正に対処させて頂くとの事だが、返還完了から5年経過時点でそれらの方のデータは削除してしまっているので日本学生支援機構側からの連絡は不能とのこと。該当する保証人だった方は、御自分で連絡して必要書類を準備する必要があるとのことです。心当たりのある方は、まずは連絡してみましょう。

 ちなみにどのくらいの該当者数及び、額になるかといいますと、約2,000人で約10億円相当になるようです。